趣 旨
エネルギー問題の解決のためには新・省エネルギー技術の開発が必要不可欠であり、特に中長期的な観点から地球温暖化対策及び電力負荷の平準化を目的に、電気自動車用及び電力貯蔵システム用として新型二次電池(アドバンスト・バッテリー)の研究開発が強く望まれています。
大阪科学技術センターでは、1992年10月に「アドバンスト・バッテリー技術研究会」を設置し、産学官の新型二次電池に関心をもつ研究者・技術者相互の連携を深め、新型二次電池に関する学術ならびに技術の進歩向上に資する諸活動を長期的な視点で展開しています。
当初、本研究会では、様々な小型アプリケーションで実用化されつつあったリチウムイオン電池をターゲットとして取り組んできましたが、リチウムイオン電池に加え、キャパシタ、固体電池、空気電池、ナトリウム系電池等、近年さらに注目を集める電力貯蔵デバイスや車載用電池の技術動向、ユーザーサイドの視点から見た場合の諸課題にも焦点を当てた活動を推進しています。また、社会的に利用用途の拡大が期待される、再生可能エネルギー導入の進む、新しいエネルギー社会システムの構築を見据えた電池開発についても広く取り組んでまいります。
発足の経緯
科学技術の進歩によって、私達の暮らしは豊かになったものの、地球に存在する資源・エネルギーが浪費され、また私達を取り巻く環境が損なわれてきました。そのため、環境との調和の下に資源・エネルギーの有効な活用が計られる技術の開発が望まれていました。これを解決するため、第1次石油ショックを機に、昭和49年に太陽エネルギーなどの自然エネルギーや新エネルギーの開発を目的とした、国家プロジェクト「サンシャイン計画」が始まり、さらに、昭和53年にエネルギーの効率利用による地球環境の保全を目的とした省エネルギー技術の開発プロジェクト「ムーンライト計画(大型省エネルギー技術研究開発計画)」が始まりました。この計画の中の分科会には、燃料電池発電技術、新型電池電力貯蔵システム(揚水発電代替)、引き続き、分散型電池電力貯蔵技術(家庭用、自動車用)]などが含まれました。
これらの目的には、古くからの鉛蓄電池が用いられていましたが、新型のエネルギー変換・貯蔵用の二次電池として、β-アルミナ固体電解質を用いる高温型のナトリウム・硫黄電池、水溶液電解質中に反応物質を貯蔵する亜鉛・臭素電池、レドックス・フロー電池、大出力が期待できますが、単電池電圧が小さい(1V程度)ニッケル・水素電池などの開発が期待されていましたが、期待通りの成果を得ることは難しい現状でした。一方、電池の負極にリチウムを用いると、単電池電圧3〜4Vが得られ、電解質が少量で、常温作動のエネルギー密度が大きい電池を造ることができました。このような観点から、リチウムを負極に、リチウム塩を溶解したプロピレンカーボネートなどの非水系溶液を電解質に用いる電池の開発が進められ、正極に二酸化マンガン、或いはフッ化黒鉛を用いる世界最初の民生用のリチウム一次電池が昭和45年に我が国で開発され、携帯機器の電源として用いられました。しかし、リチウム負極を充電すると、針状、或いは樹枝状のリチウムが析出するため、二次電池の開発は難しいとされていました。平成3年になって、負極に黒鉛化炭素、正極にコバルト酸リチウムを用いる小型のリチウム(イオン)二次電池が開発され、携帯電話、ノートパソコンなどの電源として用いられるようになりました。
一方、国家プロジェクトとしてのエネルギー関連の開発研究を効率的に運用する目的で、平成5年より、サンシャイン計画、ムーンライト計画、及び地球環境技術研究開発の体制を一体化した「ニューサンシャイン計画(エネルギー・環境領域総合技術開発推進計画)」が発足しました。この計画では、民間企業独自では行うことが困難な大型のエネルギー関連技術の研究開発を、産業界、国立研究所、大学など各分野の力を結集して進め、省エネルギー関連のプロジェクトの一つとして「分散型電池電力貯蔵技術」が採用されました。本プロジェクトは、「大容量かつ小型で経済性のある高能率未来型電池により、電力需用家において夜間の電力を貯蔵(充電)し、昼間に電力を放出(放電)し、負荷平準化に寄与する分散型電池電力貯蔵技術を開発する」ことを目的とし、具体的には、家庭で電力を貯蔵するための定置型、及び電気自動車へ適用する移動体用の2種類のリチウム電池を開発することとしました。
電力負荷の平準化による中長期的観点からの省エネルギーによって、地球温暖化対策を果すには、夜間電力の貯蔵システム、電気自動車などに適用するアドバンスト・バッテリー(新型二次電池、特に高性能が期待されるリチウム二次電池)の開発を産業界、国立研究所、大学などの各分野の力を結集して進めねばならない。
そこで、大阪科学技術センターでは、ニューサンシャイン計画の開始を控え、すでにリチウム(イオン)二次電池が開発された、平成4年10月に、「燃料電池部会」がすでに活動しているエネルギー技術対策委員会の中に「アドバンスト・バッテリー技術研究会」を設置しました。